税務・法務
社員紹介制度の就業規則への記載例|リファラル採用を制度化するための規定テンプレート
「リファラル採用を始めたいけど、就業規則にどう書けばいいか分からない」
リファラル採用の制度設計を進めていくと、多くの中小企業が壁にぶつかるのがこの問題です。 インセンティブの金額や紹介フローは決まったのに、それを就業規則にどう落とし込めばいいのか——。 社労士に相談したくても、何を相談すればいいのかすら分からない。
この記事では、リファラル採用(社員紹介制度)を就業規則に記載するための具体的な規定テンプレートを全7条で公開します。 コピーして自社の状況に合わせて修正するだけで、制度の骨格が出来上がります。
重要な注意事項: この記事のテンプレートはあくまで一般的な記載例であり、法的助言を提供するものではありません。実際の就業規則への反映にあたっては、必ず顧問社労士または弁護士にご確認ください。
(※リファラル採用の基本については「リファラル採用とは?」、報酬の相場と設計方法は「リファラル採用の報酬相場」、税務処理は「紹介報酬にかかる税金」で解説しています)
まず確認:就業規則への記載は「法的義務」なのか?
結論から言うと、リファラル採用制度そのものを就業規則に記載する法的義務はありません。
労働基準法第89条が定める就業規則の「絶対的必要記載事項」(労働時間、賃金、退職に関する事項)には、社員紹介制度は含まれていません。 そのため、「実施要領」や「運用ガイドライン」として社内文書にまとめるだけでも、法令違反にはなりません。
しかし、実務上は就業規則(または賃金規程)への記載を強く推奨します。 その理由は2つあります。
理由1:職業安定法第40条のリスクを回避するため
職業安定法第40条は、報酬を得て職業紹介を行うことを原則禁止していますが、「賃金、給料その他これらに準ずるもの」として支払う場合は例外としています。
紹介報酬を「賃金」として位置づけるためには、就業規則または賃金規程に明記し、給与として支給する形式を取ることが最も確実な方法です。 規定がないまま報酬を支払うと、「これは賃金なのか、紹介の対価なのか」が曖昧になり、法的リスクが高まります。
理由2:社員間の公平性とトラブル防止のため
「紹介したのにインセンティブがもらえなかった」「条件を聞いていなかった」といったトラブルは、ルールが明文化されていないことが原因で起きます。 就業規則に記載することで、全社員に対して統一的なルールが適用され、不公平感やトラブルを未然に防げます。
就業規則への記載方法:2つのパターン
リファラル採用の規定を就業規則に反映する方法は、大きく2つのパターンがあります。
パターンA:就業規則の本則に追記する
就業規則の「賃金」または「その他」のセクションに、社員紹介手当の条項を直接追加する方法です。 条文が1〜2条で済む場合はこの方法がシンプルです。
パターンB:別規程(社員紹介制度規程)を新設する
就業規則の本則には「社員紹介制度については別に定める社員紹介制度規程による」とだけ記載し、詳細を別規程として整備する方法です。 条文が多くなる場合(5条以上)はこちらが管理しやすくなります。
中小企業へのおすすめ: 制度が小規模(報酬も1パターン程度)ならパターンA、段階制インセンティブなど詳細なルールを設ける場合はパターンBが適しています。 この記事では、より汎用的なパターンB(別規程)のテンプレートを中心に解説しつつ、パターンA用の簡易版も提示します。
【テンプレート】社員紹介制度規程(全7条)
以下は、中小企業がそのまま使えることを想定した社員紹介制度規程のテンプレートです。 【 】内は自社の状況に合わせて修正してください。
第1条(目的)
本規程は、当社の社員が友人・知人等を採用候補者として紹介する制度(以下「社員紹介制度」という)について、その運用に関する事項を定めることを目的とする。 社員紹介制度は、社員の個人的なネットワークを活用し、当社の企業文化に適合する人材を効率的に採用することを目指すものである。
解説: 目的条項は「なぜこの制度を設けるのか」を明確にする役割を持ちます。「効率的な採用」だけでなく「企業文化に適合する人材」と記載することで、「誰でもいいから紹介してほしい」という誤解を防ぎます。
第2条(適用範囲)
- 本制度の紹介者となれる者は、当社に在籍する【正社員および契約社員】とする。ただし、以下の者は対象外とする。 (1)採用に関する意思決定権を有する者(役員、人事部門責任者等) (2)試用期間中の者
- 紹介の対象となる候補者は、当社が別途指定する募集ポジションに適性を有すると紹介者が判断した者であって、過去【1年】以内に当社の選考を受けていない者とする。
- 紹介者と候補者が親族関係(3親等以内)にある場合は、その旨を申告するものとする。
解説: 対象外とすべき者を明記しておくことで、後のトラブルを防ぎます。「過去1年以内に選考を受けていない」という条件は、既に不採用となった候補者の再紹介によるトラブルを回避するためです。親族の場合の申告義務も、縁故採用との混同を避ける上で有効です。
第3条(紹介の手順)
- 紹介者は、候補者の同意を得た上で、当社所定の方法(紹介専用URL、QRコード、または紹介フォーム)により候補者の情報を会社に提供するものとする。
- 会社は、紹介を受けた候補者に対し、まずカジュアル面談(選考を伴わない情報交換の場)を実施する。カジュアル面談は合否の判定を目的とするものではない。
- カジュアル面談の結果、候補者が正式な選考を希望する場合は、通常の採用選考プロセスに進むものとする。選考基準は他の応募者と同一とする。
- 紹介者は、候補者の選考プロセスに関与してはならない。
解説: 「候補者の同意を得た上で」を必ず入れてください。個人情報保護の観点から極めて重要です。カジュアル面談を正式選考の前に位置づけることで、「紹介=面接に連れていく」というハードルを下げます。「選考基準は他の応募者と同一」は、公平性を担保するための必須条項です。
第4条(紹介手当の支給)
- 本制度により紹介された候補者の採用が決定し、以下の条件を満たした場合、紹介者に対して紹介手当を支給する。
支給段階 条件 支給額 第1段階 カジュアル面談が実施されたとき 【3,000】円相当のデジタルギフト 第2段階 候補者が正式面接に進んだとき 【5,000】円相当のデジタルギフト 第3段階 候補者が入社し、【3ヶ月】間継続して勤務したとき 【30,000】円(給与加算)
- 紹介手当のうち、第3段階の手当は賃金として支給し、給与明細に「紹介手当」として記載する。第1段階および第2段階のギフトについても、給与所得として課税処理を行う。
- 以下のいずれかに該当する場合、紹介手当は支給しない。 (1)紹介者が、候補者の入社日までに退職した場合 (2)候補者が第3段階の在籍期間を満たす前に退職した場合(第3段階の手当に限る) (3)紹介者が第2条第1項に定める対象外に該当する場合
解説: この条項が規程の核心部分です。段階制インセンティブの金額・条件・不支給事由を明確に定めることで、「もらえると思っていたのにもらえなかった」というトラブルを防ぎます。金額は自社の予算と方針に合わせて【 】内を修正してください。第3段階の「入社後3ヶ月」は一般的な設定ですが、「6ヶ月」にする企業もあります。
(※報酬の相場感については「リファラル採用の報酬相場」で業種別に解説しています)
第5条(不採用時の対応)
- 候補者が選考の結果不採用となった場合、会社は紹介者に対し、紹介への感謝を伝えるとともに、結果を速やかに通知する。不採用の詳細な理由については、候補者のプライバシーに配慮しつつ、必要な範囲で共有する。
- 不採用となった候補者と紹介者の関係性を維持するため、会社は【5,000】円を上限とする会食費を補助することができる。
解説: 不採用時のフォロー体制を規程に明記しておくことで、社員が安心して制度を利用できるようになります。SmartHR社の「ごめんねごはん制度」を参考にした会食費補助も、金額上限とともに記載しておくと運用がスムーズです。
第6条(個人情報の取扱い)
- 紹介者は、候補者の個人情報を会社に提供する際、事前に候補者本人の同意を得なければならない。
- 会社は、本制度を通じて取得した候補者の個人情報を、採用選考の目的以外に使用しない。
- 会社は、候補者の選考状況を、候補者本人の同意なく紹介者に詳細に開示してはならない。ただし、第5条第1項に基づく結果通知は除く。
解説: 個人情報の取扱いは、2022年の個人情報保護法改正により一層厳格化されています。「候補者の同意なく紹介者に選考状況を伝えない」という条項は特に重要です。紹介者から「あの件どうなった?」と聞かれた際に、人事が適切に対応するための根拠にもなります。
第7条(改廃)
本規程の改廃は、会社の判断により行い、改定の際は社員に対して速やかに周知するものとする。
附則
本規程は、【20XX年XX月XX日】から施行する。
【簡易版】就業規則の本則に直接追記する場合のテンプレート
別規程を作るほどではないが、最低限のルールを就業規則に入れておきたい場合は、以下のように賃金規程の「その他手当」セクションに追記する方法があります。
第○条(社員紹介手当)
- 当社に在籍する社員が、友人・知人を採用候補者として紹介し、当該候補者が入社後【3ヶ月】間継続して勤務した場合、紹介者に対して社員紹介手当として【30,000】円を支給する。
- 社員紹介手当は、賃金として給与に加算して支給する。
- 社員紹介制度の詳細な手順およびカジュアル面談の実施については、別途定める運用ガイドラインによる。
この簡易版は3行で済むため、就業規則の変更手続きも最小限で済みます。 詳細な段階制インセンティブや不採用時のフォロー体制は、「運用ガイドライン」として社内文書で定める形です。
就業規則を変更したら:届出と周知の手続き
常時10人以上の企業は届出が必要
従業員が常時10人以上いる企業は、就業規則を変更した場合に以下の手続きが必要です。
- 社員の過半数代表者(または労働組合)の意見を聴取する
- 意見書を添付して、所轄の労働基準監督署に届け出る
- 変更後の就業規則を全社員に周知する
常時10人未満の企業の場合
労働基準監督署への届出義務はありませんが、社員への周知は同様に必要です。 全体ミーティングで説明し、社内の共有フォルダやイントラネットに規程を掲載しておきましょう。
周知のポイント
規程を社員に配布するだけでなく、「なぜこの制度を作ったのか」「社員にとって何がメリットか」を併せて説明することが制度定着の鍵です。
(※社内告知の方法については「リファラル採用の始め方 完全ガイド」のSTEP4で詳しく解説しています)
テンプレートをカスタマイズする際の注意点
注意点1:インセンティブの金額は「社会通念上妥当な範囲」に
就業規則に記載する報酬額は、人材紹介会社に支払う手数料(年収の30〜35%)よりも明らかに低い水準に設定してください。 正社員の場合は合計で数万円〜数十万円程度、アルバイトの場合は数千円〜数万円程度が一般的な相場です。
注意点2:支給条件は具体的に
「採用が決定した場合」だけでは曖昧です。「入社後3ヶ月間継続して勤務した場合」のように、いつ・どの時点で支給されるかを明確にしてください。 曖昧な記載は、支給をめぐるトラブルの原因になります。
注意点3:既存の就業規則・賃金規程との整合性
社員紹介手当を新設する場合、既存の賃金規程に定義されている「手当一覧」にも追加が必要です。 また、紹介手当が標準報酬月額に影響するかどうか(社会保険料への影響)も確認してください。
注意点4:最終的には必ず専門家に確認を
この記事のテンプレートは一般的な記載例です。 自社の業種・規模・既存の就業規則の構成・報酬体系によって最適な記載方法は異なります。 規程の最終確認は、必ず顧問社労士または弁護士に依頼してください。
リファぱっとなら社労士監修のガイドラインが付属
「テンプレートは分かったけど、自社に合わせてカスタマイズする自信がない」「社労士に相談する前に、もう少し具体的なたたき台が欲しい」——そう感じた方には、リファぱっと の導入をおすすめします。
リファぱっとには、社労士監修のインセンティブ運用ガイドラインが付属しています。
| 含まれる内容 | 詳細 |
|---|---|
| 報奨金の法的性質の解説 | 給与としての性質、職業安定法との関係、「賃金」とみなされるケースの判断基準 |
| 税務・社会保険上の注意点 | 課税対象としての取り扱い、源泉徴収の必要性、社会保険料への影響 |
| 就業規則に盛り込むべき項目 | 対象者・支給タイミング・金額・支給方法・例外条件の5項目を整理 |
| 運用上の注意点と不正防止 | 紹介の強制禁止、個人情報の取り扱い、不正行為への対応策 |
このガイドラインを「たたき台」として顧問社労士に持ち込めば、ゼロから相談するよりも大幅に時間を短縮できます。
ツール自体も、社員ごとの紹介URL発行、3段階のデジタルギフト自動送付、紹介状況のダッシュボード管理など、制度の運用に必要な機能を月額10,000円(税別)で提供。無料で始められます。
よくある質問
Q. 就業規則に書かなくても「要領」だけで運用しても問題ありませんか?
法令上は問題ありません。リファラル採用は労働基準法第89条の「絶対的必要記載事項」には含まれていないため、「社員紹介制度実施要領」として社内文書で運用することも可能です。ただし、インセンティブを「賃金」として支払う場合は、賃金規程(就業規則の一部)への記載が望ましいです。賃金としての位置づけが不明確だと、職業安定法第40条に抵触するリスクが高まります。
Q. パート・アルバイトにも同じ規程が適用されますか?
パート・アルバイト用の就業規則が別に存在する場合は、そちらにも社員紹介制度の規定を追加するか、「正社員就業規則の社員紹介制度規程を準用する」と記載してください。規程がないまま特定の雇用形態だけインセンティブを支給すると、不公平感やトラブルの原因になります。
Q. インセンティブをギフト券で支給する場合も就業規則への記載は必要ですか?
必要です。ギフト券であっても、社員への報酬として支給する以上は給与所得として課税対象になります。就業規則(または賃金規程)に「デジタルギフト等の現物支給を含む」旨を記載し、給与として処理する形式を取ることで、法的リスクを回避できます。
(※ギフト券の税務処理については「紹介報酬にかかる税金」で詳しく解説しています)
Q. 規程を作った後、どれくらいの頻度で見直すべきですか?
最初の3〜6ヶ月は運用しながら課題を洗い出す期間として、社員からのフィードバックを元に必要に応じて改訂してください。制度が安定したら、年に1回の定期見直しで十分です。法改正があった場合は速やかに対応が必要です。
まとめ:テンプレートは「たたき台」として使い、専門家に仕上げてもらう
この記事で提供したテンプレートは、リファラル採用の規程を「ゼロから作る」負担を大幅に軽減するためのものです。
最も大切なのは、以下の3つの項目が明文化されていることです。
① 誰が紹介できるか(第2条) — 対象者と対象外を明確に。 ② いくら・いつ支給されるか(第4条) — 金額・条件・不支給事由を具体的に。 ③ 候補者の個人情報をどう扱うか(第6条) — 同意の取得プロセスを明記。
この3つが書かれていれば、最低限の規程としては機能します。 テンプレートを自社に合わせてカスタマイズしたら、最終的には必ず社労士または弁護士に確認を取ってください。
規程づくりと併せて、リファラル採用の運用を効率化したい場合は、リファぱっと をご活用ください。社労士監修のガイドラインで規程づくりの「たたき台」も手に入ります。
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